2010-01-01から1年間の記事一覧

ポール・ウィルス「ハマータウンの野郎ども」

ハマータウンの野郎ども (ちくま学芸文庫)作者: ポール・E.ウィリス,Paul E. Willis,熊沢誠,山田潤出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1996/09/01メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 182回この商品を含むブログ (81件) を見る 本書は、イギリス国内の某新制中…

谷崎潤一郎「陰翳礼賛」陰翳の在り処

陰翳礼讃 (中公文庫)作者: 谷崎潤一郎出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1995/09/18メディア: マスマーケット購入: 26人 クリック: 180回この商品を含むブログ (221件) を見る 前回は日本人に潜む幽邃な情景への追慕について触れたので、それと関連して…

伊藤左千夫「野菊の墓」

野菊の墓・隣の嫁 (角川文庫)作者: 伊藤左千夫出版社/メーカー: 角川書店発売日: 1966/03メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (2件) を見る 愛する人とのつながりを習わしに引き裂かれる哀切と、農村に暮らす人々の豊かな人情が描かれている。…

ラディゲ「肉体の悪魔」

肉体の悪魔 (新潮文庫)作者: ラディゲ,新庄嘉章出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1954/12/14メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (40件) を見る 私たちはときとして、自分の言動に思ってもみないような小汚い策略が潜んでいたことに…

木村敏「異常の構造」去勢の未介入という病について

異常の構造 (講談社現代新書)作者: 木村敏出版社/メーカー: 講談社発売日: 1973/09/20メディア: 新書購入: 4人 クリック: 21回この商品を含むブログ (15件) を見る 精神分裂病、今で言うところの統合失調症の患者の内部で何が起こっているのかについて、「常…

ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)作者: ダニエルキイス,Daniel Keyes,小尾芙佐出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1999/10/01メディア: 文庫購入: 75人 クリック: 1,445回この商品を含むブログ (251件) を見る 超頭脳を得たチャーリイは、過去…

ツィンマーマン「フランシス・ベイコン<磔刑>」

フランシス・ベイコン 磔刑―暴力的な現実にたいする新しい見方 (作品とコンテクスト)作者: イェルクツィンマーマン,J¨org Zimmermann,五十嵐蕗子,五十嵐賢一出版社/メーカー: 三元社発売日: 2006/03/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 17回この商品を含…

モーム「雨・赤毛」

雨・赤毛: モーム短篇集(I) (新潮文庫)作者: サマセット・モーム,William Somerset Maugham,中野好夫出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1959/09/29メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 11回この商品を含むブログ (24件) を見る 二階に上がって、秘めやかな悦…

ソルジェニーツィン 「イワン・デニーソヴィチの一日」

イワン・デニーソヴィチの一日 (新潮文庫)作者: ソルジェニーツィン,木村浩出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1963/03/20メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 25回この商品を含むブログ (45件) を見る生活のうちには、生活を支える生活と呼ぶべきものが常に根づ…

コレット「シェリ」

シェリ (岩波文庫)作者: コレット,Colette,工藤庸子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1994/03/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 27回この商品を含むブログ (17件) を見る サガンの「ブラームスはお好き」を思い出した。人物造形やプロットが似ていなく…

続・ホメオパシーは確かに「正しい」

ホメオパシーは確かに「正しい」 http://anond.hatelabo.jp/20100925023112 はてな匿名ダイアリーでこのエントリーを投稿したのが私だったということでした。おかげさまで予想外に多くのブックマークが得られ、面白い意見をいくつか頂くことができました。し…

エミリー・ブロンテ「嵐が丘」

嵐が丘(上) (岩波文庫)作者: エミリー・ブロンテ,河島弘美出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2004/02/17メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 11回この商品を含むブログ (28件) を見る 平易な文章と会話文の多さから、子ども向けの小説なのだろうかと読み始め…

ジョージ・オーウェル「一九八四年」

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)作者: ジョージ・オーウェル,高橋和久出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2009/07/18メディア: ペーパーバック購入: 38人 クリック: 329回この商品を含むブログ (350件) を見る 巻末に寄せてあるピンチョンの解説のよう…

「カフカ寓話集」ブランコ的無限地獄

10/12加筆。「やる気のない感想」改め、「ブランコ的無限地獄」に昇格。 カフカ寓話集 (岩波文庫)作者: カフカ,池内紀出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1998/01/16メディア: 文庫購入: 9人 クリック: 33回この商品を含むブログ (54件) を見る 巣穴内の事情…

チェーホフ「桜の園」

桜の園 (岩波文庫)作者: チェーホフ,小野理子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1998/03/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (40件) を見る 未来への希望と幸福への予感を諭す抒情的な青年・トロフィーモフによって、決定的な没落…

ジャン・コクトー「恐るべき子供たち」

恐るべき子供たち (岩波文庫)作者: コクトー,鈴木力衛出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1957/08/06メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 32回この商品を含むブログ (53件) を見るろくに学校に通わず、働きにも出ないで享楽的な日々を送る少年少女たちは、奇妙…

中川淳一郎「ウェブを炎上させるイタい人たち」

著者は「ウェブはバカと暇人のもの」でわりと名を知られた中川淳一郎。「ウェブはバカと暇人のもの」「今ウェブは退化中ですが、何か?」に続く、「ネット叩き」第三弾となる書籍であり、ネットがバカと暇人の巣食う「居酒屋」に過ぎないことを強調する路線は…

三島由紀夫「午後の曳航」論4理想主義者と冷笑主義者と無神論者と

9/14大幅訂正。なにがなんだか分からない。 *1 明徹な炯眼とペシミスティックな無神論、それが早熟なこの一団、特に「首領」の形容と言えよう。そんな彼らにとって、かの船乗りが自分を男らしさの極致へ追いつめてきたあの重い甘美な力を振り捨て、爛れるよ…

三島由紀夫「午後の曳航」論3日常は理想の夢を見る

つくづく自分が船乗りの生活のみじめさと退屈に飽きはてていることを発見していた。彼はそれを味わいつくし、もう知らない味は何一つ残されていないという確信をも持った。それ見ろ! 栄光はどこにも存在しなかった。世界中のどこにも。北半球にも南半球にも…

三島由紀夫「午後の曳航」論2少年は物語を夢見る

中学生の登は、父をすでに幼少に亡くしており、それ以来、未亡人の母の流麗な包容に取り囲まれていた。これによって、彼は、母性の攻囲(これについては後述する)の一方で、きらきらした、別誂えの、そこらの並の男には決して許されないようなあの光栄なる…

三島由紀夫「午後の曳航」論1父の背について

あらすじ 船乗り竜二の逞しい肉体と精神に憧れていた登は、母と竜二の抱擁を垣間見て愕然とする。矮小な世間とは無縁であった海の男が結婚を考え、陸の生活に馴染んでゆくとは……。それは登にとって赦しがたい屈辱であり、敵意にみちた現実の挑戦であった。登…

アーシュラ・K・ル=グウィン「闇の左手」を読んで

2009年2月に書いたものを再掲します。 あらすじ 両性具有人の惑星、雪と氷に閉ざされたゲセンとの外交関係を結ぶべく派遣されたゲンリー・アイは、理解を絶する住民の心理、風俗、習慣等様々な困難にぶつかる。やがて彼は奇怪な陰謀の渦中へと……エキゾチック…

プラトン「プロタゴラス」を読んで

以下の文章は訳者藤沢令夫の解説を参考にしたところが大きいです。 「プロタゴラス」は、ソクラテスとヒッポクラテスの二人が当代随一のソフィストであるプロタゴラスが逗留する宅へ訪れた際に行われたいくつかの談論の一部始終をソクラテスがかれの友人に報…

太宰治「斜陽」読解

あらすじ 最後の貴婦人である母、破滅への衝動を持ちながらも“恋と革命のため”生きようとするかず子、麻薬中毒で破滅してゆく直治、戦後に生きる己れ自身を戯画化した流行作家上原。没落貴族の家庭を舞台に、真の革命のためにはもっと美しい滅亡が必要なのだ…

梶井基次郎「桜の樹の下には」「愛撫」読解

「桜の樹の下には」においては、述懐者の様々な空想、というか病的な執着が開陳されています。 桜の根は貪婪な蛸のように、それ(注:種々の動物の屍体)を抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を集めて、その液体を吸っている。 それは渓の水が乾…

「シーシュポスの神話」を読解する12最終章

4/14訂正 いくつかの検討を見てきた私たちは、不条理から逸れ、遠ざかってゆく道をあらわにあばきだすことによって、不条理への道がどれだということをもはや知り尽くしているはずだ。けれども、梶井基次郎やドストエフスキーが私たちを偽りの世界へと騙しこ…

「シーシュポスの神話」を読解する11

4/12加筆・修正 もし神がないならば、その時ぼくが神なのだ ぼくの我意のもっとも完全なものは、ほかでもない、自分で自分を殺すことにある 俺は、自分がだれにも左右されないということと、新しい身の毛もよだつような俺の自由とをはっきりと示すために自殺…

「シーシュポスの神話」を読解する10

4/7謎の自分語りを加筆 カミュによれば、不条理とともにあって呼吸すること、不条理の教訓を承認し、その教訓を肉体のかたちで見いだすことは人を芸術創造へと向かわせる。その理由は明徹な視力をもった無関心が説明し解答することを辞めさせ、経験し記述す…

「シーシュポスの神話」を読解する9

(4/3訂正しました) 次に第二の不条理な人間の検証に映ることとしよう。演劇はあらゆる激情を万華鏡のように映し出す。それは鮮彩な生の発露する場であり、無数の運命が差出される場である。とすればそれを鑑賞することで、仮想的にではあれ可能なものの領…

「シーシュポスの神話」を読解する8

論証は終わり、章は「不条理な人間」に移る。カミュはこの章で、「不条理な論証」で引き出した人間像、すなわち自己を汲みつくすことだけをめざす人びと、あるいは自己を汲みつくしていると彼の考える人びとを例として検証していく。私の導出した理想の人間…