批評

映画「パラサイト」 リビングのイメージ

パラサイト 半地下の家族 (字幕版) ソン・ガンホ Amazon 高級住宅街の一角にあり、建築家ナムグンの設計した豪邸には3つの階級の人間が暮らしている。屋敷の主人として君臨しその暮らしを気ままに享受する者、主人のおこぼれに与りながら召使いとして影のよ…

フォークナー「死の床に横たわりて」言葉から隔離された人びと-踏みとどまる人びと

世界文学全集〈第59〉フォークナー (1967年)死の床に横たわりて サンクチュアリ 乾いた九月 あの夕陽 ミシシッピー出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 1967メディア: ?この商品を含むブログ (1件) を見る貧農バンドレン一家の主アンスの妻アディは、結婚前は…

チェーホフ「かもめ」

かもめ・ワーニャ伯父さん (新潮文庫)作者: チェーホフ,神西清出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1967/09/27メディア: 文庫 クリック: 22回この商品を含むブログ (39件) を見るチェーホフの奥深さは、筋の展開の平易さに反して、しばしば謎に満ちた象徴表現が…

ハックスリー「すばらしい新世界」

すばらしい新世界 (講談社文庫)作者: ハックスリー,Aldous Huxley,松村達雄出版社/メーカー: 講談社発売日: 1974/11/27メディア: ペーパーバック購入: 27人 クリック: 117回この商品を含むブログ (107件) を見る行き過ぎた機械文明は、真理へ向かおうとする…

映画「ノーカントリー」西部劇の後日談

ノーカントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]出版社/メーカー: パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン発売日: 2012/09/14メディア: Blu-ray クリック: 4回この商品を含むブログ (20件) を見る暗殺者シガーは普通の人間では…

トーマス・マン「魔の山」

魔の山〈上〉 (岩波文庫)作者: トーマスマン,関泰祐,望月市恵出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1988/10/17メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 59回この商品を含むブログ (57件) を見る「魔の山」では、重苦しい陰鬱さのあまり人間を茫然自失とさせてしまう…

ジェイン・オースティン「エマ」

エマ (上) (ちくま文庫)作者: ジェイン・オースティン,中野康司出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2005/10/05メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 30回この商品を含むブログ (20件) を見るこの小説では、ナイトリーやエマを始めとした良識ある人物たちによっ…

贖うホメロス、盟約するウェルギリウス 2.

◆ 『ガリア戦記』における契約概念 マルセル・モースは『贈与論』において、歴史時代にはすでに ローマ人やギリシャ人は、おそらく北方および西方のセム民族に続いて人の法と物の法との区別を考え出し、売却を贈与や交換と切り離し、道徳上の義務と契約を分…

贖うホメロス、盟約するウェルギリウス 1.

目次 ◆ ざっくばらんな要約 ◆ 前書き ◆ ギリシア悲劇における供犠の性質 ◆ 『ガリア戦記』における契約概念 ◆ 『アエネーイス』における契約と贖いの性質 ◆ 結語・ウェルギリウスにおける情念の頽落 ◆ ざっくばらんな要約 1. 古代ギリシア悲劇で描かれる人間…

メルヴィル「バートルビー」内面=偶像を拒むこと

バートルビー―偶然性について [附]ハーマン・メルヴィル『バートルビー』作者: ジョルジョアガンベン,Giorgio Agamben,高桑和巳出版社/メーカー: 月曜社発売日: 2005/07/01メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 87回この商品を含むブログ (45件) を見る本…

後藤明生「挾み撃ち」

挾み撃ち (講談社文芸文庫)作者: 後藤明生,竹田信明出版社/メーカー: 講談社発売日: 1998/04/10メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 15回この商品を含むブログ (48件) を見る敗戦前の日本領北朝鮮に生まれ、戦後に九州に引き揚げた「わたし」は、大学受験のた…

カフカ「城」不在の監視装置

注:不条理性はひとまず置いといて、環境管理のはたらき方を考察の主眼にしています。 城 (新潮文庫)作者: フランツ・カフカ,Franz Kafka,前田敬作出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1971/05/04メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 76回この商品を含むブログ (1…

コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」「火」への自意識

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)作者: コーマック・マッカーシー,黒原敏行出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2010/05/30メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 54回この商品を含むブログ (67件) を見る 父子は、いかに窮に瀕しようと人肉を食さないことを信条と…

石川啄木「一握の砂・悲しき玩具」苦患の共同体

1/11ちょっと加筆しました。 一握の砂・悲しき玩具―石川啄木歌集 (新潮文庫)作者: 石川啄木,金田一京助出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1952/05/19メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 47回この商品を含むブログ (51件) を見る はたらけどはたらけど…の一節が…

「カフカ寓話集」ブランコ的無限地獄

10/12加筆。「やる気のない感想」改め、「ブランコ的無限地獄」に昇格。 カフカ寓話集 (岩波文庫)作者: カフカ,池内紀出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1998/01/16メディア: 文庫購入: 9人 クリック: 33回この商品を含むブログ (54件) を見る 巣穴内の事情…

三島由紀夫「午後の曳航」論4理想主義者と冷笑主義者と無神論者と

9/14大幅訂正。なにがなんだか分からない。 *1 明徹な炯眼とペシミスティックな無神論、それが早熟なこの一団、特に「首領」の形容と言えよう。そんな彼らにとって、かの船乗りが自分を男らしさの極致へ追いつめてきたあの重い甘美な力を振り捨て、爛れるよ…

三島由紀夫「午後の曳航」論3日常は理想の夢を見る

つくづく自分が船乗りの生活のみじめさと退屈に飽きはてていることを発見していた。彼はそれを味わいつくし、もう知らない味は何一つ残されていないという確信をも持った。それ見ろ! 栄光はどこにも存在しなかった。世界中のどこにも。北半球にも南半球にも…

三島由紀夫「午後の曳航」論2少年は物語を夢見る

中学生の登は、父をすでに幼少に亡くしており、それ以来、未亡人の母の流麗な包容に取り囲まれていた。これによって、彼は、母性の攻囲(これについては後述する)の一方で、きらきらした、別誂えの、そこらの並の男には決して許されないようなあの光栄なる…

三島由紀夫「午後の曳航」論1父の背について

あらすじ 船乗り竜二の逞しい肉体と精神に憧れていた登は、母と竜二の抱擁を垣間見て愕然とする。矮小な世間とは無縁であった海の男が結婚を考え、陸の生活に馴染んでゆくとは……。それは登にとって赦しがたい屈辱であり、敵意にみちた現実の挑戦であった。登…