読解

ウォートン「エイジ・オブ・イノセンス」

エイジ・オブ・イノセンス―汚れなき情事 (新潮文庫)作者: イーディスウォートン,Edith Wharton,大社淑子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1993/09メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 3回この商品を含むブログ (9件) を見る1870年代のニューヨークの上流社会に…

トマス・ピンチョン「競売ナンバー49の叫び」

競売ナンバー49の叫び (ちくま文庫) [ トマス・ピンチョン ]ジャンル: 本・雑誌・コミック > 文庫・新書 > 文庫 > その他ショップ: 楽天ブックス価格: 972円 信号とは、じつは無価値なかす、世俗的な予告であって、発作中に啓示されたものとは無関係である…

ルソー「人間不平等起源論」

人間不平等起原論 (岩波文庫)作者: J.J.ルソー,Jean Jacques Rousseau,本田喜代治,平岡昇出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1972/01/01メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 25回この商品を含むブログ (26件) を見るルソーにとって人間の本質とは、自然状態に…

クーン「科学革命の構造」パラダイムはルールとどう違うのか?

科学革命の構造作者: トーマス・クーン,中山茂出版社/メーカー: みすず書房発売日: 1971/03/06メディア: 単行本購入: 14人 クリック: 365回この商品を含むブログ (90件) を見る科学とは従来、知識や研究が蓄積されることを通して、連続的・直線的に発展する…

クッツェー「鉄の時代」存在という恥、逃避という恥辱

鉄の時代 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-11)作者: J.M.クッツェー,くぼたのぞみ出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2008/09/11メディア: 単行本 クリック: 35回この商品を含むブログ (31件) を見る アパルトヘイト末期の騒乱が吹き荒れるケープタウ…

ラディゲ「肉体の悪魔」

肉体の悪魔 (新潮文庫)作者: ラディゲ,新庄嘉章出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1954/12/14メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (40件) を見る 私たちはときとして、自分の言動に思ってもみないような小汚い策略が潜んでいたことに…

ツィンマーマン「フランシス・ベイコン<磔刑>」

フランシス・ベイコン 磔刑―暴力的な現実にたいする新しい見方 (作品とコンテクスト)作者: イェルクツィンマーマン,J¨org Zimmermann,五十嵐蕗子,五十嵐賢一出版社/メーカー: 三元社発売日: 2006/03/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 17回この商品を含…

チェーホフ「桜の園」

桜の園 (岩波文庫)作者: チェーホフ,小野理子出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1998/03/16メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (40件) を見る 未来への希望と幸福への予感を諭す抒情的な青年・トロフィーモフによって、決定的な没落…

ジャン・コクトー「恐るべき子供たち」

恐るべき子供たち (岩波文庫)作者: コクトー,鈴木力衛出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1957/08/06メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 32回この商品を含むブログ (53件) を見るろくに学校に通わず、働きにも出ないで享楽的な日々を送る少年少女たちは、奇妙…

中川淳一郎「ウェブを炎上させるイタい人たち」

著者は「ウェブはバカと暇人のもの」でわりと名を知られた中川淳一郎。「ウェブはバカと暇人のもの」「今ウェブは退化中ですが、何か?」に続く、「ネット叩き」第三弾となる書籍であり、ネットがバカと暇人の巣食う「居酒屋」に過ぎないことを強調する路線は…

プラトン「プロタゴラス」を読んで

以下の文章は訳者藤沢令夫の解説を参考にしたところが大きいです。 「プロタゴラス」は、ソクラテスとヒッポクラテスの二人が当代随一のソフィストであるプロタゴラスが逗留する宅へ訪れた際に行われたいくつかの談論の一部始終をソクラテスがかれの友人に報…

太宰治「斜陽」読解

あらすじ 最後の貴婦人である母、破滅への衝動を持ちながらも“恋と革命のため”生きようとするかず子、麻薬中毒で破滅してゆく直治、戦後に生きる己れ自身を戯画化した流行作家上原。没落貴族の家庭を舞台に、真の革命のためにはもっと美しい滅亡が必要なのだ…

梶井基次郎「桜の樹の下には」「愛撫」読解

「桜の樹の下には」においては、述懐者の様々な空想、というか病的な執着が開陳されています。 桜の根は貪婪な蛸のように、それ(注:種々の動物の屍体)を抱きかかえ、いそぎんちゃくの食糸のような毛根を集めて、その液体を吸っている。 それは渓の水が乾…

「シーシュポスの神話」を読解する12最終章

4/14訂正 いくつかの検討を見てきた私たちは、不条理から逸れ、遠ざかってゆく道をあらわにあばきだすことによって、不条理への道がどれだということをもはや知り尽くしているはずだ。けれども、梶井基次郎やドストエフスキーが私たちを偽りの世界へと騙しこ…

「シーシュポスの神話」を読解する11

4/12加筆・修正 もし神がないならば、その時ぼくが神なのだ ぼくの我意のもっとも完全なものは、ほかでもない、自分で自分を殺すことにある 俺は、自分がだれにも左右されないということと、新しい身の毛もよだつような俺の自由とをはっきりと示すために自殺…

「シーシュポスの神話」を読解する10

4/7謎の自分語りを加筆 カミュによれば、不条理とともにあって呼吸すること、不条理の教訓を承認し、その教訓を肉体のかたちで見いだすことは人を芸術創造へと向かわせる。その理由は明徹な視力をもった無関心が説明し解答することを辞めさせ、経験し記述す…

「シーシュポスの神話」を読解する9

(4/3訂正しました) 次に第二の不条理な人間の検証に映ることとしよう。演劇はあらゆる激情を万華鏡のように映し出す。それは鮮彩な生の発露する場であり、無数の運命が差出される場である。とすればそれを鑑賞することで、仮想的にではあれ可能なものの領…

「シーシュポスの神話」を読解する8

論証は終わり、章は「不条理な人間」に移る。カミュはこの章で、「不条理な論証」で引き出した人間像、すなわち自己を汲みつくすことだけをめざす人びと、あるいは自己を汲みつくしていると彼の考える人びとを例として検証していく。私の導出した理想の人間…

「シーシュポスの神話」を読解する7

(3/17後半大幅に書き換えました) これまでのところ、不条理を抱え持って確実なものだけに依拠して生きるということは、なかなか良いものだということが判明した。明徹な意識を維持することなく不条理を捨て去って生きる者に比して、そうした生き方が何層倍…

「シーシュポスの神話」を読解する6

束縛条件から抽き出された帰結の一つ目は反抗という精神態度であった。この解答はさしあたり私たちに生きることを薦めるものであったが、残りの帰納的事実もまた生存を肯定するのであろうか。次は議案を「自由(p.99)」に移して見ていこう。とは言っても、今…

「シーシュポスの神話」を読解する5

(えーと、現象学についての記述をすっぽかしているので4を飛ばして5になります。) 人間を全被造物に対立させている(p.92)ものは、ただこの理性であり、またそれこそが世界とのあいだにのっぴきならぬ葛藤――不条理――を与える。確実性と明証性への徹底的な…

「シーシュポスの神話」を読解する3

ヤスパースは自己の無力を告白し、自己の存在と超越者を求める努力は究極的に挫折を経験すると考えた。私たちはついに世界の「本当のこと」=世界の究極的真理を知ることはできず、自らの絶対的限界を思い知ることになるというのである。なるほどこれは納得…

「シーシュポスの神話」を読解する2

ここまでの流れを改めて確認しておこう。特に、不条理の分析方法についてはまだ抽象的で、その意味するところが十分に汲み取りきれないので、それについても具体的に見て行こう。 幸福と理性への欲望(p.53)という人間的な呼びかけと世界の不当な沈黙の対置、…

「シーシュポスの神話」を読解する1

読解と冠しましたが、本文の逐一解釈・解説と言った方が適切でしょう。興味はあるんだけど難解で挫折した…という方や、カミュの不条理の哲学を理解したいと思っている方のお役に立てられれば幸いです。また、彼の小説、特に「異邦人」に込められた思想も解釈…