ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)


超頭脳を得たチャーリイは、過去のチャーリイが残した疎外を回復すべく、自分を見離した両親のもとを訪ねる。自分の分身が道ばたのあちこちで落っことしてしまった親子の原風景を取り戻してゆく行程は、失われた自分自身の破片をかき集める孤独な作業でもある。私には、そんなチャーリイがどうしてもオイディプス王に見えてしまうのだ。
白痴の純真なチャーリイは、盲目の予言者テイレシアスだ。かれは視覚も力も持たないけれども、オイディプスの運命を読み取り、真実を知る。つまりかれはオイディプスの真実を作り出し、支配している。そして、オイディプスは予言とともに生き、悲劇をひとつひとつ重ねてゆくことで真実と合一してゆくのである。
予言に操られ、予言に踊らされる王は、最後に自ら目を突きテーバイから追放される。オイディプスはテイレシアスとなる。
かくしてチャーリイは回帰し、かつての安からな盲目者へとひとつになる。