フォースター「インドへの道」

インドへの道 (ちくま文庫)

インドへの道 (ちくま文庫)

われわれはしばしば、異文化との出会いと人生の新しい展望を混同する幼稚な下心を抱きがちであるが、現地の風土と人びとを目の当たりにして、感覚の甘い期待はなすすべなく押し曲げられ変質してしまう。


「インドへの道」は、異文化との接触による感覚のひずみがもたらす陥穽を、アデラ・クウェステッドとムア夫人という二人のイギリス婦人の経験を借りて剔出している。その陥穽とは、新鮮な経験によってこれから待ち受ける人生を試そうとする純真な人間がとりつかれる可能性への予感というものが、異国の地に足を踏み入れたときにこれまでにない惑乱を受け、手ひどい敗退を喫したという挫折の苦みを味わったあとで、同国人の仲間たちとともに異国の風土を眺めおろす場所へと逃げ帰ることにより、諦観と寛容という見かけを装った、典型的な偏見へと回収される罠のことである。